一級建築士は高度な知識と技能が求められ建築業界には不可欠な職業ですが、世間では収入が少なく食っていけないともいわれています。本記事では、一級建築士が食っていけないといわれる理由や、年収をあげるためのポイント、資格取得するメリットを解説します。
建物を設計したり工事の監督・管理を行ったりする専門職である建築士。高度な知識と技能が求められ、建築業界には不可欠なプロフェッショナルです。
建築士の中でも最上級の資格に「一級建築士」がありますが、一部では十分な収入が見込めない、つまり「食えない」職であるという声も聞かれます。
本記事では一級建築士が「食えない」といわれる理由をまとめつつ、資格を取得するメリットや年収を上げるためのポイントを解説します。
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一級建築士とは、建物の設計や工事管理を行う国家資格である「建築士」のうちの一つです。建築士には大きく分けて一級建築士・二級建築士・木造建築士の三種類があり、許可される職務の範囲と免許の交付元が異なります。
一級建築士は規模や構造などの制限なく、あらゆる建物を設計することができ、国土交通大臣の免許を受けます。
また一級建築士として5年以上構造設計の業務に従事し、所定の講習を修了すると構造設計一級建築士の証が交付される他、5年以上設備設計の業務に就いて同じく講習を修了すると、設備設計一級建築士の証が交付されます。
なお、二級建築士は一級建築士に比べて設計可能な建物に制限があり、木造建築士は一定規模で2階建てまでの木造建造物設計に限られるのが特徴です。
一級建築士は合格率が約1割程度ともいわれる難関試験ですが、資格を取得しても十分な収入につながりにくいという声もあります。
「食えない」というのは劇的に収入が上がるわけではないパターンに関する極端な例えですが、どのような根拠があるのでしょうか。
以下に一級建築士になっても食えないといわれる4つの理由と、実際の状況を挙げました。
一級建築士は資格取得後の変化があまりないといわれることがありますが、これは資格に関する「試験」と「登録」の違いが大きな原因の一つです。
一級建築士の試験は学科と設計製図に分かれており、実務経験がなかったとしても両方をクリアすると合格となります。
ただし資格試験に通っても一級建築士として「登録申請」を行うためには所定年数の実務経験が必要です。実務経験は大卒で建築系・デザイン系の学科ならば2年、土木系学科ならば1年以上が目安となります。
実務を積んでいる状態で正式に資格取得(登録)が完了したとしても、急に収入が上がるわけではありません。ただし企業で資格手当が支給されたり、より待遇の良い他社に転職したり、あるいは独立して多くの仕事を取るなど収入アップの可能性はさまざまです。
少子化によって建築需要そのものが減少することの懸念から、一級建築士の資格取得のメリットが疑問視されることがあります。住宅を基準に考えると今後新築される絶対数は減っていくことが見込まれるため、その点は的を射た予測です。
しかし都市部ではビルやインフラの再開発が、地方では振興策による開発が進んでいることから、住宅に限らずあらゆる建物の設計が可能な一級建築士の需要はまだまだなくなることはないと考えられています。
近年はAIがさまざまな仕事を人間に代わって行うようになっていますが、一級建築士にも同様の懸念が示されています。特に建物の設計に関して、AIの代行によってデザイン料などのコストを大きく削減できる可能性があることから、一級建築士が不要になるのではとの悲観論もあります。
しかしAIの得意分野は分析的な部分を占めており、クリエイティブな課題についてはいまだ人間の感覚の方が優位です。
このことから、現状では一級建築士の仕事の全てをAIで代替するのは難しいといえるでしょう。
BIMの導入が増えてきていることも、一級建築士の価値に影響を及ぼすのではと考えられています。
BIMとは「Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)」の頭文字を取った言葉で、建物の立体モデルをコンピューター上で再現する技術のことです。従来は製図ツールのCADが主流でしたが、視覚的により分かりやすく操作性にも優れたBIMの普及で、一級建築士の仕事が狭まることが懸念されるというものです。
しかしBIMは設計業務を支援するツールとしての役割が期待されており、むしろ今後は建築士の生産効率アップに寄与すると考えられています。
一級建築士になっても「食えない」といわれる理由を見てきましたが、次にこの資格を取得するメリットを詳しく見ていきましょう。
以下に代表的なメリットを3例挙げました。
一級建築士は試験に合格しても、登録申請のためには一定年数の実務を積む必要があるため、企業や設計事務所などで働きながら目指すのが一般的です。また合格率が約1割という難関でなおかつ設計できる建物に制限がなくなることから、一級建築士として登録されると社内での評価が上がることが期待できます。
具体的には昇進・昇格やより大きなプロジェクトへの参画、資格手当をはじめとした昇給など待遇が変化する場合もあります。
一級建築士の資格はステータスの高さから、転職・就職で有利になります。就職先としては設計事務所やゼネコン、ハウスメーカーや工務店などが代表的で、制限なくあらゆる建物の設計を行える一級建築士の有資格者は重宝される人材です。
また、より高待遇の企業へと転職する際にも強力なアピールポイントとなるため、非常に有効な資格であるといえます。一級建築士であることは一定の実務経験を有している証でもあり、即戦力となる人材として期待されるでしょう。
一級建築士は自らの設計事務所や会社を創設するなど、独立しやすいこともメリットです。
一級建築士の資格は社会的な信用やステータスにもつながることから、独立の道を選ぶ人も少なくありません。自身の裁量次第で自由に仕事を選べることや、経営手腕によっては収入を大きくアップさせられることも魅力です。
なお、顧客の獲得や安定的な経営など多くの課題がある点には注意が必要です。
ここまでは一級建築士は食えないといわれること、その一方で実際には多くのメリットがあることについて述べてきましたが、具体的にはどのくらいの年収が見込めるのでしょうか。
令和元年(2019年)の賃金構造基本統計調査によると、企業規模10人以上の企業に勤務する一級建築士の平均年収は約641万円でした。内訳は所定内給与月額が41万300円、年間賞与・特別賞与が148万7,200円です。日本の給与所得者の一年を通じた平均給与が461万円であることから、収入としては高めといえます。
一級建築士は高度な専門資格であることからメリットが多く、平均よりも高い収入を見込めることが分かりました。しかしさらに年収をアップするためには、どのようなことに取り組めばよいのでしょうか。
以下で、そのための5つのポイントを見ていきましょう。
一級建築士が年収アップを目指すためには、コミュニケーションスキルを向上させることが重要です。企業に所属する場合も独立して設計事務所などを構える場合も、やはり人同士のコミュニケーションが基本であるためで、建築の仕事に限ったことではありません。特に建物の設計や工事監理という大きなプロジェクトを任されるためには、相手から信頼してもらうことが重要となるため、コミュニケーションスキルは大切なポイントとなります。
また単にトークやプレゼンが的確であるだけでなく、誠実さや安心感といった人間性に関わる部分も大切にしましょう。
一級建築士の資格そのものがある種の実績の証ではありますが、具体的にどのような物件やプロジェクトを手掛けたのかが何よりのポートフォリオとなります。従って積極的に実績を積んでいくことが年収アップには重要なポイントで、手掛けてきた仕事の内容によってさらに大きな依頼が舞い込むという好循環を期待できます。
建築の仕事は建物という目に見える形での成果であるため、一級建築士としてのスキルを端的に示すためにも、実績を積むことが重要です。
一級建築士が年収アップを実現させるのに欠かせない要素の一つが、人脈を広げることです。どのようなビジネスも人間関係の上に成り立っているのは周知のことで、建築の仕事においても同様です。
一級建築士としての能力が認められれば人伝に評判が知れ渡っていき、そのネットワークを通じて多くの仕事を依頼されるようになる可能性が高まります。人脈が広がればその分チャンスも広がることから、人との縁を大切にすることを心がけましょう。
新技術を使いこなせるようにすることも、一級建築士が年収アップを図るために重要な要素です。
AIやBIMの進歩によって設計業務にも革新的な変化が起こり、一部では脅威に感じるという声もあります。
しかしこれらの新技術を建築士の業務を支援するツールとして適切に利用することで、生産効率を向上させたり、よりクリエイティブな分野に注力する時間を捻出したりすることも可能となります。
単純に時間単価の効率をアップさせるだけでも年収に影響するため、新技術に対する感度を高めることも大切です。
元請けの仕事を増やすよう意識することも、一級建築士の年収アップにつながります。
発注元から依頼された仕事をさらに別の業者へと回すのが下請けですが、マージンが発生するため下請けになるほど報酬は低くなります。従って元請けとなる仕事を多く手掛け、マージンを引かれない取り分の多い業務で収入の効率化を図ることがポイントです。なるべく源流、あるいは上流工程での仕事を請けることを意識しましょう。
最後に一級建築士の将来性について検証してみましょう。
「食えない」といわれるのが多くの面で現実の状況とは異なることを見てきましたが、将来的な不安や業界を取り巻く環境への懸念に由来している面も否定できません。
そこで予測できる将来的なシチュエーションを3例挙げ、それぞれの状況から一級建築士が将来、必要となる見識を述べました。
AIは既にさまざまな業務で採用が進んでおり、例えば文章やイラストを生成するツールとして活用が始まっています。一級建築士の仕事においても特に数値やデータを扱う部分での有効性が期待されます。
また建物の立体モデルをコンピューター上で見られるBIMは、顧客にとって外観や間取りをより容易に把握できることから、建築士の業務を強力にサポートしてくれるでしょう。
AIやBIMは作業を効率化するため、建築士にとっては人間の感性ならではのクリエイティブな分野に注力する時間と機会が増える可能性があります。将来的にはさらなる性能向上が見込まれることから、AIやBIMを支援ツールとして使いこなせるようになることも大切です。
SDGsやバリアフリーへの関心と必要性の高まりから、一級建築士にもその知識が必要になることが見込まれます。近い将来というよりは現在進行形で求められている知識であるといえ、環境と社会を取り巻く変化に対して鋭敏であることが重要です。
なおSDGsとは、国連総会で採択された持続可能な開発のための17の国際目標のことで、建築業界にとっても環境や福祉への配慮などに直接関連する項目があります。バリアフリーの課題についても同様で、環境と人間に優しい建築の実現に期待される役割は大きいといえます。
普段から積極的にSDGsとバリアフリーの知識にアクセスしておきましょう。
日本社会の少子高齢化が進んでいますが、一級建築士の人材も高齢化の傾向があります。特定世代に集中した人材が業界から引退していくと、専門家の不足や人材の空洞化を招く恐れが生じます。
従って近い将来に若手の一級建築士は人材としての希少価値が高まることが予測され、今後はより一層ニーズが増す資格となるでしょう。
取得を目指すのに有望な資格の一つであるといえますが、ベテランの一級建築士が現役でいる間にノウハウや知識を吸収すべくコミュニケーションを大切にすることも重要です。
一級建築士は「食えない」といわれることについてその理由と実態、資格を取得することで得られるメリットと年収アップの具体策を解説しました。併せて一級建築士の将来性にも触れたように、確かなニーズを見込める有望な資格の一つであるといえます。
社会のインフラに不可欠な建物を設計し、工事監理を行う一級建築士は、今後ますます重要性を増すことが予測されます。そのため、より一層活躍の場を広げるための適切な取り組みを行うことがポイントです。
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