オフィスビルや店舗、住宅など多くの建築物の建設に建築士が関わっています。建築士法で、建築士しか設計または工事監理をしてはならない構造や範囲などが定められているほど、重要な職業です。建築において中心的な役割を果たす建築士ですが、その具体的な業務内容を詳しく知らない方もいるのではないでしょうか。
建築士は大きく、一級建築士・二級建築士・木造建築士の3つに分類されますが、本記事では主に二級建築士について解説します。二級建築士の概要やできること、主な仕事内容、一級建築士との違いを見ていきましょう。記事後半では二級建築士の活躍できる職場やおおよその年収、二級建築士になる方法なども解説するので、ぜひ参考にしてください。
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目次
二級建築士とは、各都道府県から認定される、建築物の設計・工事監理に携わる国家資格です。
建築士は、建築士法に定められた資格を有する建築のプロフェッショナルで、一級建築士と二級建築士、木造建築士に分類されます。これらの資格は、建築物の規模や構造、用途、素材などによって業務範囲が定められている点が特徴です。
建築物の具体的な条件は後述しますが、二級建築士は住宅や店舗、小規模なオフィスビル、その他建築プロジェクトなどで、建築物の設計や安全管理、工事監理、工事契約に関する業務などを担います。
大きな建築物の建築に関わることはできませんが、デザインや設計に関する高い能力が求められます。また二級建築士は、建築の全体の流れで重要な役割を果たしており、建築物を安全かつ効率的に建てるためには欠かせない職業です。
二級建築士は、建築士法により以下の条件を満たす建築物の設計・工事監理を行えます。
・鉄筋コンクリート造、鉄骨造、石造、れんが造、コンクリートブロック造もしくは無筋コンクリート造の建築物または建築物の部分で、延べ面積が30平方メートルを超えるもの
・上記以外の建築物で延べ面積が100平方メートル(木造建築物の場合は300平方メートル)を超える、または3階以上のもの
二級建築士が建築できる構造物は上記の範囲です。ただし、1つ目の条件の建築物の場合「建築物の高さが13メートル、軒の高さが9メートルを超えるもの」「延べ面積が300平方メートルを超えるもの」、2つ目の条件の建築物の場合「延べ面積が1000平方メートルを超えるもの」、「学校・病院・映画館・劇場などの建築物」などは、一級建築士しか設計または工事監理が行えません。
続いては、二級建築士の具体的な業務である「設計業務」と「工事監理業務」をご紹介します。
設計業務とは、建築物の構想から工事、完成までの一連の流れを包括する業務です。具体的な設計プロセスには、「工事を始める前の地盤・敷地調査」「建築物の構造、設備、内装、外装、素材などの決定」「平面図・立面図・断面図などの詳細な図面の作成」などが挙げられます。
これらに加えて、「クライアントのニーズを満たせているか」「予算内に収まっているか」「最終的なデザインはこれでいいのか」「建築基準法に準拠した安全な建築物か」など多くのことを検討しなければなりません。先ほどご紹介した範囲未満の小規模の建築物なら二級建築士でなくても設計できますが、これらのマルチタスクを高い水準でこなすのは至難の業です。
二級建築士の業務内容のうち設計業務は「建設する前」のものですが、建設中は「工事監理業務」を担います。これは建設プロジェクトが、安全かつ品質を保って進められているかを監理する業務です。
具体的には、「設計どおりに建設が進められているか」「施工の品質・建設の安全性が保たれているか」「工程は順調か」などを評価します。必要に応じて工事担当者と協議し、接合部の安全性や鉄筋の数量、コストなどをチェックするのも二級建築士の重要な役割です。
建築物が完成した後は、建築状況を詳細に記した工事監理報告書や工事完了検査書などを作成し、発注者や建築局に提出します。実際の建築物と書類に相違があると、手直し工事が必要になる他、行政処分を受ける可能性もあるため高い精度で建設工事全体を統括する必要があります。
二級建築士の上位の資格に、一級建築士があります。両者の共通点と違いをそれぞれ詳しく見ていきましょう。
一級建築士と二級建築士の共通点は、いずれも住宅の設計・工事監理に携われる点です。
例えば、鉄筋コンクリート造でかつ、延べ面積が30平方メートル以上300平方メートル未満のものであれば、いずれかの資格があれば設計・工事監理が行えます。
一級建築士と二級建築士の主な違いは、「設計・工事監理できる建築物の規模」と「免許の交付元」の2つです。
一級建築士と二級建築士では、設計・工事監理できる建築物の規模が異なります。二級建築士が携われる建築物の構造・規模の範囲は先述したとおりですが、一級建築士は制限がなく、事実上全ての建築物を設計することが可能です。
また、免許の交付元も異なります。二級建築士が都道府県知事から免許を受けるのに対し、一級建築士の免許の交付元は国土交通大臣です。
二級建築士は、具体的に以下の職場で活躍できます。
・ゼネコン
・ハウスメーカー
・工務店
・設計事務所
・建築士事務所
それぞれの職場で果たしている役割を見ていきましょう。
ゼネコンとはゼネラルコントラクター(General Contractor:総合建設業者)の略称で、主に大規模な建設プロジェクトの設計や建設を担う企業です。会社規模によって「スーパーゼネコン」「準大手ゼネコン」「中堅ゼネコン」に分けられます。
ゼネコンは建設プロジェクト全体の流れを統括しながら、その過程でさまざまな下請け企業や専門家と連携を取ります。その中で、設計や工事監理、品質管理などの役割を担っている
のが二級建築士です。
ゼネコンは人気の就職先で、大学院卒の求人が多く、採用基準は高めといえるでしょう。大規模な建設プロジェクトに関わりたい、福利厚生・給与の恵まれた企業で働きたい方におすすめの職場です。
ハウスメーカーとは、住宅の設計、建築、販売を一貫して行う企業です。主に中小規模の戸建て住宅の建設に関わります。
ハウスメーカーではクライアントのニーズに合わせて、さまざまな規模や特徴の住宅を建設します。そのため、ハウスメーカーで働く二級建築士は、それらに対応できる幅広いスキルセットが必要です。例えば、クライアントのニーズを満たしつつ、安全かつ効率的に工事が行われているか、予算内にプロジェクトが進行しているかなどをチェックします。
人口減少に伴い住宅への需要は減りつつありますが、実績を積みながら「年収アップ」「一級建築士を目指す」など、キャリアアップを目指すこともできます。
工務店はハウスメーカーと同様に、住宅の設計・建設に関わります。ハウスメーカーとの違いは、ハウスメーカーが大規模かつ全国的なネットワークを持つのに対して、工務店は地域に根ざしたサービスを提供している点です。規模が大きい工務店では、大手ハウスメーカーのようにモデルハウスや住宅展示会を行ったり、近隣地域でも営業を行っていたりします。
工務店は地域に密着した運営がなされているという特性上、地域の文化や気候などの特徴に合わせた住宅づくりを得意とします。地域社会と深く結びつき、顧客一人ひとりと親密な関係を築くことを重視しながらも、住宅の設計・建築・監理業務に携わりたい方におすすめです。
設計事務所は、建築の設計を主な業務とする専門の事務所です。戸建て住宅や集合住宅、店舗などさまざまな建築物の設計に携わります。
一口に設計事務所といっても、ハウスメーカーのように全国展開している大手設計事務所や、地域に根ざした中小規模の設計事務所、ユニークなデザインの建築物を創る個人運営のスタジオなど多岐にわたります。就職先を選ぶ際は、自身が何を重要視するか、どのようなことにやりがいを感じるかなどで決めると良いでしょう。
建築士事務所とは、クライアントの意向に基づき、建築の設計、工事監理、指導監督、その他建築に関わる契約書の締結などの業務を担う専門の事務所です。設計などを生業として報酬を受け取る場合は、都道府県知事の登録を受けなければならないと建築士法で定められています。二級建築士は主に、建築物の設計・工事監理などの役割を担います。
ここまでは主に就職もしくは団体に属するケースをご紹介しましたが、経験と実績を積めば独立も可能でしょう。
二級建築士を目指す上でやはり気になるのが、年収です。ここでは、国税庁が発表した民間給与実態統計調査に基づき、二級建築士を含めた建築業界の年収をご紹介します。
同資料によると、建設業の平均給与は511万円です。給与所得者の平均給与が443万円である点を考慮すると、比較的高い水準にあることが分かるでしょう。
上位資格である一級建築士となると、建築できる建築物の制限がなくなるため、より大規模な建設プロジェクトに関われます。その分、年収は上昇する傾向にあります。
二級建築士になるには、学校で指定科目を修めて学校を卒業した後に、二級建築士の受験をして合格する必要があります。それぞれのステップを詳しくご紹介します。
まずは受験資格を得るために、学校で指定科目を修めて学校を卒業します。対象となる学校は、以下のとおりです。
・大学
・短期大学
・高等専門学校
・職業能力開発総合大学校
・職業能力開発大学校
・職業能力開発短期大学校
・高等学校
・専修学校
・各種学校
・職業訓練校
上記の学校に通い、以下に示す指定の科目を修める必要があります。
・建築設計製図
・建築計画
・建築環境工学
・建築設備
・構造力学
・建築一般構造
・建築材料
・建築生産
・建築法規
・複合・関連科目
必要な単位数は、卒業する学校により異なります。
また、都道府県知事が指定の科目を修めて学校を卒業した者と同等の知識を持つと認めた者と、建築実務の経験が7年以上ある者にも受験資格が与えられます。
参考:公益財団法人 建築技術教育普及センター. 「二級建築士・木造建築士の受験・免許登録時の必要単位数(学校種類別)」.
先述の受験資格を満たした後、二級建築士試験を受験して合格すると、二級建築士になることができます。二級建築士試験の内容と合格率を詳しく見ていきましょう。
二級建築士試験の試験区分は、「学科の試験」「設計製図の試験」の2つに分類できます。
学科の試験の出題形式は五肢択一式で、出題科目・出題数・試験時間は以下の表のとおりです。
出題科目 | 出題数 | 試験時間 |
学科I(建築計画) | 25問 | 計3時間 |
学科II(建築法規) | 25問 | |
学科III(建築構造) | 25問 | 計3時間 |
学科IV(建築施工) | 25問 |
設計製図の試験は、あらかじめ公表される課題の建築物について設計図書を作成します。課題数は1問で、制限時間は5時間です。過去5年間は、以下の内容が出題されました。
年 | 課題 |
令和元年 | 夫婦で営む建築設計事務所を併設した住宅(木造2階建て) |
令和2年 | シェアハウスを併設した高齢者夫婦の住まい(木造2階建て) |
令和3年 | 歯科診療所併用住宅(鉄筋コンクリート造) |
令和4年 | 保育所(木造) |
令和5年 | 専用住宅(木造) |
なお、製図試験は、学科試験に合格しなければ受験できません。
参考:公益財団法人 建築技術教育普及センター. 「出題科目、出題数等」.
二級建築士の過去5年間の試験合格率は、以下の表のとおりです。
令和元年 | 令和2年 | 令和3年 | 令和4年 | 令和5年 | |
学科 | 42.0% | 41.4% | 41.9% | 42.8% | 35.0% |
製図 | 46.3% | 53.1% | 48.6% | 52.5% | 49.9% |
総合 | 22.2% | 26.4% | 23.6% | 25.0% | 22.3% |
先述したように、製図試験は学科試験に合格した人のみが受験できます。ある程度高い知識を持っている人が受験していて、試験内容は事前に公開されていますが、試験に合格する人は半分程度です。この点を考慮すると合格率は決して高いとはいえないので、十分な対策が必要です。
参考:公益財団法人 建築技術教育普及センター. 「試験結果」.
本記事では、二級建築士の概要や具体的な業務内容、一級建築士との違い、働き方などを網羅的に解説しました。二級建築士は各都道府県から認定される、建築物の設計・工事監理に携わる国家資格です。ゼネコンやハウスメーカーなどを始め、多くの働き口がある他、年収も平均的な給与と比較して高い点が利点です。
二級建築士になるには、学校で指定科目を修めて卒業し、二級建築士の試験を受験して合格する必要があります。晴れて二級建築士になった後は、経験と実績を積みながら、上位資格である一級建築士へのキャリアアップを目指すのも良いでしょう。
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